涸沢の紅葉を見に行ってきた 後編

涸沢ヒュッテのテラスにてビールで乾杯。

涸沢カールを吹き抜ける風は冷たくそしてとても強い。

まるで冷蔵庫の中にいるかのような寒さのせいで、出された時よりもキンキンに冷えていくビール。

テーブルで同席した、東京から来た山ガール2人と寒さに震えながら山談義。

夕飯の時間が迫ってきたので、テラスから食堂へと移動する。

高山とアルコールのせいか、はたまた味のせいか箸があまり進まず、

早々に夕飯を平らげて寝床へと戻る。

狭ぜまと敷き詰められた布団の上に荷物を広げ、明日に備えてパッキングをし直す。

高山病で寝込んでいる人、大声で談笑するグループ、明日のコースを確認するソロハイカー、

様々な人がたった布団4枚の上に凝縮されていることがとても可笑しく、そして愛おしくかじる。

夜の行動に備えて、たねほおずきを枕元に置く。

ヘッドランプは光線が強すぎるので、たねほおずきの光量を落として使うのが丁度良い。

パッキングを終わらせて少し休憩していたら、登山の疲れがどっと出てそのまま眠りにつく。

夜中に取った星空は人に披露するにはあまりに稚拙な仕上がりだったので割愛。

涸沢カールの星空は、山の稜線と無数の星々がとても美しく、山頂から眺める星空とはまた違った感動があった。

 

◆◆◆

 

翌朝4時。

下界ならまだまだ皆夢の中だが、山の上の朝はとても早い。

4時にもなると荷物をまとめウエアを着こむ音がそこかしこから聞こえ始める。

日の出を見に、ダウン、フリース、ズボン、もってきた全ての防寒着を着こみ外へ出る。

涸沢カールでは周囲の山々の関係上、昇る朝日を直接みることはできない。

その代わり、山頂上から徐々に赤みをおびていく奥穂高、前穂高を眺めることができる。

吹きすさむ寒風をものともせず、朝日で赤く染まっていく紅葉した木々に登山客たちは熱気を帯びた歓声をあげていた。

刻々と変わりゆく圧倒的な景観を前にただ口をぽかんと開けて眺めていた僕は、朝日が昇りきった頃には喉がからからになった。

すっかり冷えきった体をこすりながら食堂へと戻る。

暖房がほどよく効いた食堂に立ち込めるお味噌汁の香り。

山小屋の朝食はとても質素だが、山ではこれががとても沁みる。

朝食を取り終えると早々に下山開始。

涸沢ヒュッテを後にする。

帰りは来た道を戻らず、パノラマルートを通って下山。

決して楽な帰り道ではないが、来た道をもどるだけではやっぱりつまらない。

途中の登山道から、涸沢ヒュッテと涸沢小屋が見えた。

あの場所に自分が居たんだという実感と名残惜しさが今さら湧いてくる。

天気が良ければ、パノラマルートからは槍ヶ岳を眺めることができる。

今回は運良く槍ヶ岳がはっきりと見えた。

来年はもっと鍛錬をつみ、槍ヶ岳にチャレンジしようと心に誓う。

 

途中、結構なガレ場や鎖場を越えていく。

この鎖場が今回の登山で一番危ないと感じた場面だった。

 

屏風のコルから屏風の耳へ行こうと思っていたが、

テントの撤収等を考慮して、屏風の耳に行かずに下山する。

ひたすら下っていくだけなのだが、下りが一番難しく、雑に下ると簡単に怪我に繋がる。

今回はこの下山のためにストック2本持ってきたので、体重のかけ方に注意しながらテンポよく下っていく。

13時頃に新谷橋に到着。

白山ならここで終了だが、ベースがある小梨平キャンプ場までさらに歩く必要がある。

山を降りた安堵から心が完全に油断しきっており、なんでもない平らな道で何度も躓きながら

疲れた体を引きずり上高地を歩く。

小梨平キャンプ場につくと、

手早くテントを畳み、荷物をまとめ、上高地を後にした。

 

帰りのバスに揺られながら、今回の登山を自分なりに振り返る。

 

普段仕事ではPDCAサイクルなんて意識しないくせに、

いざ登山となるときっちり今回の反省点と次回の課題を立てるあたり、

つくづく自分は登山が好きなんだなと思う。

 

焼岳、槍ヶ岳、雲ノ平、行きたいところは増える一方だ。

 

次はどの山に登ろうか。

 

 

(おわり)